◆木偶の妄言◆

小泉首相が靖国参拝にこだわる理由
小泉首相が靖国神社を参拝した。
公人にあたる人物の靖国神社参拝についての僕の考えは、「
未来に続く靖国問題」、「
靖国参拝の不思議(上)」、「
靖国参拝をどうするのか? 」「
(補稿)靖国参拝をどうするのか?」などで縷々語ってきたので、繰り返さない。ここでは小泉首相が靖国神社参拝にこだわる理由を考えてみる。
2001年の総裁選で票田である遺族会向けに8月15日の靖国参拝を「公約」。国会答弁で参拝を何度も明言したために、本当の公約に「格上げ」になった。
しかし、実際には一度も8月15日に行われてはいない。毎年参拝はしているものの、01年は8月13日、02年は4月21日、03年は1月14日、04年は1月1日と前倒しをしている。
また、今回は秋季例大祭にあわせた格好となったが、玉ぐし料どころか献花料も払わず、本殿にも昇殿せず、本殿手前の拝殿でスーツ姿で礼をして賽銭を投じたのみだった。これでは合格祈願に神頼みする受験生となんら変わらない。小泉首相は靖国参拝に思い入れがあったというが、それが純粋なものであり続けたなら、「これならばやらない方がまし」となるのが自然ではなかろうか。遺族会その他靖国参拝推進派が求めているのは、日本政府の代表たる内閣総理大臣による公式な参拝だ。今回の参拝は参拝反対派からだけでなく、参拝推進派からも批判が出るであろう。
それでも靖国を参拝した。なぜか?
僕はある意味「イメージ戦略」の一貫だと思っている。
小泉首相にとって、外交で毅然とした態度を取れるのが靖国参拝(=対中韓)だけであり、靖国参拝を中止することは、小泉首相の人気の源泉である「妥協しない」「屈しない」というイメージを崩しかねない。
小泉政権では中韓の靖国参拝批判を内政干渉とみるむきが大勢を占める。「内政干渉だ」と断言した島田農水相、中国首脳に「内政干渉だという人もいる」と指摘した武部幹事長だけでなく、小泉首相本人も渡辺常雄・読売グループ会長が主催する会合で「中国が靖国に行くなと言うのは内政干渉以前の問題だ」で語ったといわれている。つまり、靖国参拝をしないことは小泉首相にとって、「中韓に妥協した」「外国の圧力に屈した」ということになり、そういう批判を浴びることこそが、小泉人気の命取りになると踏んでいるのであろう。
靖国参拝を貫く小泉首相は、高揚しつつあるナショナリズム(ただし「いびつ」な)の受け皿にもなった。小泉首相自身もそれは自覚しているに違いない。靖国参拝を中止することは、声が大きいこれらの人の支持を失うだけでなく、敵に回すことになる。
「小泉首相にとって、外交で毅然とした態度を取れるのが靖国参拝(=対中韓)だけ」と書いたが、対米外交を見るとそれがよく分かる。「
『内政干渉』に見る稚拙な日本外交」で、紹介した
「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく日本国政府への米国政府要望書」[外部リンク]を筆頭に、BSE対策、普天間基地移転でも米国に「妥協しまくり」「屈しまくり」なのだ。これだけ譲歩しているのに、日本の安保理改革案を米国に反対されたり、靖国参拝でも中韓の反発に
「歴史の問題であり、われわれは懸念の理由を理解している」などと理解を示されたり、と哀れになる。
本来なら、実際に日本の不利益を強要する米国にこそ発揮されるのがナショナリズムであろうし、米国に対する反感を口にする人も少なくない。しかし、現在高揚しつつあるナショナリズムはいびつなもので、抗えない米国には「米国は国力で日本に勝る。米国に見捨てられたら日本は生きられない。それが現実」と従順な姿勢を見せる。ところが中韓には「日中、日韓の経済相互依存度は高い。靖国ぐらい譲ろう」はならず、ルサンチマンの解消の場として、実際には大した影響がない中韓の批判に対して、「日本に劣る中韓に日本のことを言われたくない」と、反感を募らせるのだ(実は、中韓の反発がなかったら、靖国参拝に興味を持たなかったという人は少なくないはずだ)。
靖国参拝を続ける小泉首相は、このいびつなナショナリズムの写し絵なのだ。
「写し絵」だから、「写された方」からも自己肯定的に、対米屈しまくり外交は目をつぶってもらえ、中韓に対する強硬姿勢が評価される。ここで「写された方」に中韓に対して妥協したとみられれば、対米屈しまくり外交にまで批判が及ぶ可能性がある。だから、小泉首相は靖国参拝を続ける。いや、対米屈しまくり外交を続ける政権が続く限り、靖国参拝は続けられる可能性が高い。
◆
僕は今回の参拝が日中、日韓の相互不信をさらに高めさせるのではないかと危惧している。
日本からみれば今回の参拝方法は公的な要素をかなりそぎ落としたものにみえる。しかし、中韓はこれを「中韓に対する配慮」として評価するとはどうしても思えない。日本では参拝の方法などが問題となるが、中韓で問題にしているのは「首相が参拝するという行為」そのものだからだ。一方で日本では「これだけ中韓に配慮した参拝をしたのに、文句を言うとはなんだ」という人が増えるだろう。
そういえば、ブッシュ大統領は11月にも来日すると言われているが、「手土産」はなんであろうか? イラク自衛隊派遣の延長か、牛肉輸入解禁か。もしかすると、小泉首相の靖国参拝は、中韓に対するナショナリズムを高揚させることで、米国に対する反感から目をそらそうという作戦なのかもしれない。
【注】当初、本文3段目にあった「僕はもともと小泉首相自身には靖国参拝に対する思い入れはないのであろうと推測する」とした文章を、「靖国に対する思いいれはあった」とする「玄倉川」氏のコメント欄の指摘を妥当と判断し、削除しました。また、それに従い6段目(現在の5段目)の一部の表現を小直し、文書の前後を入れ替えました。ただし、小泉首相がナショナリズムを自分の人気向上に利用してきたという論旨には変更はありません。
【追記】上記【注】で「僕はもともと小泉首相自身には靖国参拝に対する思い入れはないのであろうと推測する」をコメント欄からの指摘で削除したが、小泉首相の同級生である栗本慎一郎氏に宮崎学がインタビューした週刊現代2005/12/24号の記事
「パンツをはいた純一郎」[外部リンク]を読むと、実は僕の当初の推測が正しいのではないかと思えてきた。
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by brotherjin
(2005/10/18 1:06)
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