弁護士fujita的日々 @京都

それでもボクはやってない
2007年01月24日 asahi.com 人脈記 [外部リンク]
「うその自白、絶対だめ」
20日、映画「それでもボクはやってない」が封切られた。監督の周防正行(すお・まさゆき)(50)は痴漢冤罪をいくつも取材した。立教大相撲部長を務める荒木を「シコふんじゃった。」で知った縁で、この事件の弁護団会議にも毎回かよった。新作は刑事裁判の問題点を正面から問う。「人質司法って、拷問だと思うんです」と周防。
どんな小さな一つの事件にも、人の一生と尊厳がかかっている。人間の尊厳、人権を守る。そんな弁護士の姿を見つめてゆきたい。
2007年1月22日朝日新聞(PDFファイル)[外部リンク]
「私の視点」 周防正行監督
裁判官の仕事 冤罪防ぐ最後の砦だ
「うその自白、絶対だめ」2007年01月24日
寒い冬の朝。東京・西武新宿線の電車は、すし詰めだった。
30代の男性会社員は、コートのすそを扉に挟まれ、引き抜こうと焦っていた。突然、目の前の女子中学生が叫んだ。
「やめてください、痴漢!」
高田馬場駅から警察署へ。触ったりしていないと話したとたん、怒鳴られた。「じゃあ、お前はあれか、相手がうそついてると言うんだな」。手錠をかけられる。弁護士を呼んでほしいというと、弁護士会に電話はしてくれた。
「痴漢に間違えられたんです。先生、僕はやってない」
安田隆彦(やすだ・たかひこ)(52)は、接見室で透明なアクリル板ごしに訴える会社員の必死さに、無実を確信する。
「否認すれば当分出られない。だが、君の名誉にかけて、絶対にうその自白をしちゃだめだ」
この日、安田は「当番弁護士」だった。容疑者のSOSを受けた弁護士会が、待機している会員を差し向ける制度である。もうひとり、無実を信じる人がいた。会社員の3歳上の姉だ。安田とともに動き出す。4年前のことだ。
◇日本の刑事裁判は起訴されれば99.9%が有罪となる。やってないことを被告の方が証明するのは至難の業だ。しかし、いちるの望みがあった。会社員の話では、駅で「この人はやってないと思いますよ」と言ってくれた女性がいた。名を告げずに去ったという。
姉はインターネットで、痴漢に間違われた人たちがつくったグループがあることを知り、支援を頼む。そのメンバーや安田とともに駅で目撃者捜しのビラをまいた。
姉は通勤電車にも乗りこんだ。プラカードを頭の上に掲げ、「目撃者をさがしています」と呼びかけた。沈黙の車内。「恥ずかしかった。でも隣のおじさんは、ウンウンと小さくうなずきながら聞いてくれた。うれしかった」
4日目、女性が名のり出た。姉の知らせに安田は「やった」と叫び出したくなった。「でもよく確かめて。弟さんの写真を見てもらって」。女性は、彼がコートを引っ張る姿もしっかり覚えていた。
安田は証人出廷を頼み、裁判の経過も知らせ続けた。「弁護士って思ったより地味で、一生懸命やるんだ。協力しようと思いました」と、この女性はいう。
暗闇に差し込んだ一条の光。何とかこれを生かさなくては。安田は、大学時代のゼミの先輩で痴漢冤罪にくわしい立教大教授、荒木伸怡(あらき・のぶよし)(62)に相談した。
荒木は、多くの痴漢事件を手がける鳥海準(とりうみじゅん)(49)を誘う。工藤裕之(くどう・ひろゆき)(48)、富澤伸江(とみざわ・のぶえ)(31)も加わり弁護団ができた。手弁当の会議は1年に30回以上。周到な準備をしてのぞんだ女性の証人尋問は、裁判官に強い印象を与えた。
04年5月、判決。「被告人は無罪」「コートを引っ張る激しい動きをしながら痴漢行為をすることは考え難い」。あの日から1年3カ月。検察は控訴しなかった。
痴漢事件は物証がほとんどない。被害者には、言い逃れされる悔しさがつきまとう。一方で、思いこみがあれば、誤って疑われた人の人生が暗転する。痴漢無罪判決は98年からだけで20を超す。
無実の人を罪に落とさぬように無罪推定の原則がある。だが、安田は「今の裁判はむしろ有罪推定になってしまっていないか」と思う。否認した会社員の勾留(こうりゅう)は5カ月に及んだ。認めれば釈放、否認すれば長期拘束。そんな現状は、自白を強いる「人質司法」とも評される。
◇ 20日、映画「それでもボクはやってない」が封切られた。監督の周防正行(すお・まさゆき)(50)は痴漢冤罪をいくつも取材した。立教大相撲部長を務める荒木を「シコふんじゃった。」で知った縁で、この事件の弁護団会議にも毎回かよった。新作は刑事裁判の問題点を正面から問う。「人質司法って、拷問だと思うんです」と周防。
どんな小さな一つの事件にも、人の一生と尊厳がかかっている。人間の尊厳、人権を守る。そんな弁護士の姿を見つめてゆきたい。
(このシリーズは編集委員・藤森、石村裕輔、写真は中井征勝が担当します。本文は敬称略)
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