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村上春樹、バークレーにきたる [前編] 

8月のある日、もう2年近く音信不通だったクラスメイトのチャーリーから突然メールが来て「カオリ、げんきー?そいえば、10月にハルキムラカミがUCバークレーで講演するらしいよ」と、私のささやかな人生に於いて上位を争う重大ニュースをけろっと教えてくれました。原のアニマート(本屋さん)で最初に村上春樹の本を手に取ったのが12歳の時、それ以来もうずっとずっと人生のルーティーンの一部として読み続けている村上氏がここベイエリアにやってくるとチャーリーが言っている。うごー!何が何でもいくでがんす!と大興奮の2ヶ月を経て、この週末とうとう会いに行って参りました、ミスタームラカモ。一緒に行ったユキちゃんとはもう数週間前から大盛り上がりで、道中も何が可笑しいのか二人で笑い転げながら会場に向かいます。彼女の意気込みも半端じゃありません(笑)

会場についてチケットに書かれた席に行ってみると、前から3番目、でも1列目の幅が狭いので実質前から2番目、という恐るべき良い席でありました。手の届きそうなステージの中央には小さな机と、モデレーターと村上氏の座る2脚の椅子が置いてあります。

あまりに好きすぎて、でも春樹氏とアメリカで会うというのがあまりに非現実的すぎて、当日本人がステージに出てきた時に自分がどういうリアクションするのか全然わからなかったのですが、8時になって司会者が「では、村上春樹さんをお迎えしましょう!」と紹介し、ひょっこり舞台に出てきた春樹を見たら、なんだかもう可笑しくて可笑しくてたまらないのでした。目の前にいる村上氏の姿に鳥肌が立つ程感動しているのに、笑いが止まりません。

初めに村上氏は簡単に自己紹介、なぜ小説を書くようになったか、日本社会に於ける自分の位置、などを話し、そのあと『カンガルー日和』に収められている短編『とんがり焼の盛衰』(懐かしい!)を朗読しました。講演は英語で行われましたが、朗読の際は春樹氏が日本語で、その後モデレーターで現在東京大学大学院(英米文学)の講師として日本に滞在中のローランド・ケルツ氏が英語で朗読しました。なんでしょうか、短編の話の面白さもさることながら、村上氏の「とんがり焼!とんがり焼!」と叫ぶそのエロめの声、抑揚、間の取り方、どれを取っても可笑しくてたまらず、またも笑いをこらえつつ拝聴します(でもものすごく感動しているのです)。その後ケルツ氏との対談を経て、観客からの質問コーナーと続きました。わたしも張り切って小説執筆のプロセスについての質問を書いた紙を渡しましたが、対談の中で既にその話がでてしまっていたので取り上げられませんでした。

特に印象に残ったのは、[1] なんとつい先週、長編小説を書き終えたということ(日本では来年あたり出版になりそうです!)[2] いろんなところで言及されていますが、彼が日本において強い疎外感を感じていたということ(『とんがり焼の盛衰』は暗に日本文壇の閉塞性を批判している、とも言われているので、そういう話をした後この短編を朗読したのはなかなか興味深かったです)[3] そしてやはり小説を書く時の話。村上氏が長い物語を書く時、彼はまだ仄暗いしんとした早朝に起きて、自分の中の暗闇の部分に降りて行くのだと言います。そしてそこは深ければ深いほど暗さが増していくのだと。でも書き終えたらドアを開けて「こちら側」に戻って来なければいけない。そして戻ってくるにはかなりの体力がいる、だから毎日走っているのだ、と彼はいいます。彼はその闇の中で何を見ているのでしょう。そんなところが村上春樹の「得体の知れぬ怖さ」だと常々思っています。

私の拙い語彙では書き尽くせませんが、本当に楽しかったです。今年一番の大事件と言えましょう。そして、翌日のサンフランシスコでのブックサイン会へと興奮は続いてゆきます。

つづく




by kaoridrome
(2008/10/14 4:31)
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