みなとも工房 〜メイド服と空気銃〜

短編小説『我が工房のメイドさん』 後編
読み返してみると自分の文章力の低下具合が良くわかる。
そういう意味ではこれを書いて載せた意味があったと思う。
…って自己反省材料の塊みたいなのを載せるってどうよ?
ちょっとマシにしてから載せようぜ?
というわけで後編です。
前編、
中編を未読の方はそちらを先にお読みください。
:読書前の注意:
・この作品はフィクションです。実在する人物・団体とは一切関係ありません。
・誤字・脱字は全力で見逃してください。
・大した内容ではないので、飽きたら健康のために読むのをやめて寝ましょう。
・感想は歓迎です。批判はちょっと勘弁してください。
アレッサがアパートを追い出されたところから今朝までのことを簡潔にまとめ、要点を漏らさず話し終えると、ヴィアーチェは黙ったままうつむいた。何を言われるんだろうかとびくびくしながらみなともはメイド長の言葉を待ったが、いつまで待っても何も言われないのでこれは相当怒っているんだと思った。
「ヴィアーチェ。これだけはわかってほしいんだけど、アレッサを泊めて私が実家に戻れば違反にならないというのが詭弁だというのはわかってた。でも、だからってアレッサを深夜に放り出すなんてことはできない。そんなことするのは私の信念が……」
「私が怒っているのはそういうことではありません」
ぴしゃりとみなともの言葉を遮って、ヴィアーチェは顔を上げてアレッサを見た。怒っているのか泣いているのか、どちらともとれる複雑な表情をしていた。
「どうして追い出されたときにすぐ相談してくれなかったのですか」
「いや、だからそれはあたしがさっき言った通り……」
「八重崎に迷惑がかかるからですか? 私に相談するとお祖父様の耳に入るからですか?」
いつも冷静なヴィアーチェらしくもなく、畳み掛けるように質問を浴びせ掛けてくる。アレッサは少し身構えてしまっていた。
「……あたしは例の件でのこともあるし、とにかく会長にだけは迷惑を掛けられないから」
「どうして私からお祖父様に話が筒抜けになるとお考えなのですか。私には秘密厳守できないと、そうお思いなのですか?」
「え? いや、あたしはそんなこと」
「そう思っていなければ私に黙っていようなどとお考えにならないでしょう?」
「…………」
指摘され、アレッサは言葉に詰まった。意識の上ではそんなことを欠片も考えていないつもりだったが、無意識にそう考えていたのかもしれない。ヴィアーチェと八重崎グループをイコールで結んで、そこに個人を見ていなかったのかもしれない。
「確かに私はあなたよりも年下です。世間のことだってあなたほど知らないかもしれません。何もわかっていない小娘に偉そうにされるのが気に入らないかもしれません。信用できないかもしれません。
でも、こんな私でも、あなたの上司です。相談されれば可能な限り力を尽くすつもりでいます。秘密にしてくれと言われればそれを守ります。もちろん力が及ばずに残念な結果になることも多々あるでしょう。それでも私は、力になりたいと思っています」
今にも紅い瞳から涙が零れ落ちそうな表情で、しかし泣かないように必死に自分を抑え付けてヴィアーチェは言った。毅然として常に冷静で落ち着いている普段のメイド長の姿はそこに無く、今アレッサの目の前にいるのは、信頼されない不安で押し潰されそうになった一人の人間だった。
そんな姿を見せられ、アレッサは強く動揺した。
「アレッサさん。そんなに私は信頼できない人間ですか?」
そこにこの一言。
普段のヴィアーチェなら絶対に言わない、気弱な一言。
それが動揺するアレッサに鋭く突き刺さり、深く深く潜り込んで行く。
そしてそれが心の深奥にまで達したとき、アレッサは自分が泣いていることに気づいた。頬に流れる温かいものが膝の上で組んだ手に落ちて弾けると、感情の堰も弾け飛んだ。
「そんなわけないじゃないですか……! あたしが今までに出会った人の中で一番信頼できる人ですよ! 戦場で一緒に命を張って戦った上官よりもずっと信頼できる人ですよ……!」
抑え切れない未知の感情の奔流に、アレッサは呻き声をあげて握った拳をテーブルに叩きつけた。溢れ出る涙を必死に抑えようと、顔を伏せて肩を震わせていた。
「そんな人を不安にさせるなんて……あたしは……あたしは……」
ただただ悔しさだけが止め処なく湧きあがってきて、それが自身への怒りと変わり、ぎりぎりと血の気が消えて真っ白になるほど握り締めた拳で自身を思い切り殴り飛ばしてやりたくなった。工房に仕えると決めたそのときの決意を忘れてしまった今の自分を、力の限り殴ってやりたかった。
そんなアレッサの手を優しく取って、ヴィアーチェは微笑んだ。
「そこまで自分を責めないでください。確かに相談されなかったことは寂しいですが、それはアレッサさんがお祖父様の耳に入らないようにとあらゆる可能性を考えた上での措置だったということはわかっています。私を信頼していないからではないということは、十分理解しています」
「……メイド長……」
「三年近くも一緒にここで過ごしてきたのですから。それくらいはわかります」
言ってヴィアーチェは笑った。先ほどまでの不安に押し潰されそうな表情はどこにもなかった。それを見たアレッサは安心し、動揺していた自身を落ち着かせた。
そして頬の涙を拭って、やれやれとかぶりを振る。
「……わかっていながら『信頼できませんか』なんて訊くのはちょっと意地悪じゃないですか? あれじゃああたしが泣くしかないじゃないですか」
「規則違反をした罰です。しっかり反省してください」
さらっと一言。それでアレッサは今までのヴィアーチェの言動は全て芝居だったことを悟った。
「……なんて罰だ。効き過ぎだよ……ちくしょう。どうせローナの入れ知恵なんだろ?」
「ご名答」
苦笑しながら訊くと、ローナもさらっと答えた。そのあっけない物言いに、アレッサは怒りを通り越してただ笑うしかなかった。この緊急召集が規則違反に対する罰を与えるために初めから仕組まれたものだと、今はっきりと理解した。
「で? みなともに罰は? 工房主の命令に従っただけのあたしがこれだけの罰を受けたんだ。規則違反をそそのかした張本人が無罪ってわけにはいかないよねぇ?」
と悪魔じみた表情でみなともを見て、ニヤリと笑う。
芝居と理解したからには、もう一人の罰を受けるべき人物にもスポットライトを当てたくなるのが人情というものである。
「ちょっ、アレッサ……! いい具合に空気になってたのにそんな……」
ダイニングの隅で空気と化していたみなともは、アレッサの指摘で舞台に引っ張り出されて焦った。あわよくばこのまま自分の罰をうやむやにしようという計画は共犯者の一言で破綻した。とりあえずアレッサとみなともの間にはヴィアーチェほどの信頼関係は無いらしい。いや、絆が深いからこそ「死なばもろとも」の心理が働くのだろうか。どちらにしても結果は同じであるが。
「ご心配なく。もちろん用意してありますよ。フォーゲルリートのココアケーキとイチゴミルクを一週間分、もちろん全員に自腹で、という優しい罰が」
「いやあのちっとも優しくないんですが。一週間分ってキツ過ぎないかな、ローナ。ケーキだけならまだしもイチゴミルクまで付けると一体いくらになると……」
「アレッサさんが工房に一人になるようにご自身が外へ出たというところを紳士的と受け止め、酌量の余地として減刑してあるんですが何か?」
「…………」
ダメだここで逆らったらえらいことになる。
脳内直感危機管理センターからそう報告を受けたみなともは控訴を断念した。
「……寒さで死にかけた甲斐はあったということか……。実は、別に早朝に入れ替わらなくてもアレッサが泊まったことは秘密にするんだから通勤偽装だけ完璧にすれば問題ないじゃないかとか考えてたんだが……実行しなくて良かった」
「もしそうしていたら……うふふふ」
「とりあえずローナのその含み笑いを見たらやめてよかったと心底思うよ」
魔王の微笑みに背筋が凍るような思いをしつつ、みなともは安堵のため息をついた。その様子がおかしくて、アレッサとヴィアーチェは思わず笑ってしまった。
「では、規則違反したお二人の罰が決まったことですし、次の議題に入りましょう」
「次の議題? 他に何が?」
ヴィアーチェの話題転換にアレッサは眉をひそめて問い返した。しかしすぐに答えは返って来ず、何か議論されるようなことがあったかどうかを考え、一つの可能性に行き当たる。
「……みなとも、アンタまた何かやらかしたわけ?」
「え……い、いや、別に何も。やだなぁアレッサってば。はははは」
『あるのか。何か』
「べ、別に何もないんだからねっ!」
メイド隊からのハモりツッコミに思いっきり動揺しつつ答えるみなともをジト目で見る一同。
「それは後ほどゆっくり聞かせていただきます。次の議題は、アレッサさんの新居をどうするかです。みなさん、何かいいアイデアがあればおっしゃってください」
「ああ、いや、別にそんなことを話し合わなくても……」
慌てて議論を止めようと、アレッサは少し大きな声でヴィアーチェの話に割って入る。
「これだけ騒ぎを大きくしておいてそんな話までされちゃ、こっちの肩身が狭くなりっぱなしと言うか……」
「そう言われても手遅れなんですけどねー」
と、珍しくアレッサに噛み付いたのは、お気楽天然娘のメイリン。
「メイ、それどういう意味?」
「だってもうアレッサさんの部屋は見つかってるわけで」
「……は? どういうこと?」
わけがわからず、アレッサはぽかんとしながらメイリンの次の言葉を待つ。
「ですから、もう新しい部屋は見つけてあるんです。五日前クローディアさんに頼まれて、工房の近くで家賃が前と同じくらいの部屋をいつでも借りられるようにしてあるんですよ」
「してあるって……どうやって?」
バックに八重崎グループが控えているメイド長じゃあるまいし、と心の中で付け加えて能天気そうな笑顔のメガネメイドを見る。正直メイリンにそんな力があるとは到底思えない、というのが一般的な見解である。
しかしメイリンはそんな疑惑の目を気に留めず、ふふん、と偉そうにあまり大きくない胸を張った。
「私、こう見えても交友関係は広いんですよー。散歩していたら近所の不動産屋さんとかコンビニの店長さんとかからお菓子貰ったりジュースをもらったりするんですから」
「うむ。さすがは私が見込んだだけある。それが黒髪メガネっ娘メイドの正しい在り方というものだ」
「わぁ、みなともさんに誉められちゃったー」
「わー、メイリンを誉めちゃったー」
「黙れ撃つぞみなとも。じゃあメイの知り合いの不動産屋に探してもらったわけ? というかなんでディアがそんなことをメイに頼むのよ?」
戯言を抜かす雇い主を銃口と一言で黙らせ、アレッサはクローディアのほうを向いた。きょとんとした蒼い瞳を向けられた方は相変わらずの無表情で、視線だけがゆっくりと動いた。
「アレッサのことだ、前の件もあってメイド長には相談できないだろうと思ってな。しかし独力で探すには時間がかかりすぎ、宿無しの期間が長くなるだろう。そこでどうにかできないかとローナに相談してみたところ、情報網を使っていくつか良さそうな部屋を見つけ、その一つがちょうどメイリンの知り合いの所有だとわかったので交渉を頼んだというわけだ」
「そうじゃなくて。なんであたしがまだ部屋を見つけてないってことがわかったの?」
聞きたいのはそっちじゃない、と言わんばかりに急き込んで問い返した。クローディアは無表情のまま、アレッサだけが見抜ける程度に笑った。
「随分見くびられたものだな。私に嘘が通じると? 新しい部屋を見つけたと、私の部屋から出て行くための嘘をつかれて気づかないと思ったのか?」
「……じゃあさっき地下で訊いてきたのって……」
「言わば確認だ。嘘ではないとわかれば、この話は黙っているつもりだった」
「……なに、それ……」
アレッサはうつむいて肩を震わせ、膝に置いた手でエプロンドレスを力いっぱい握り締めた。
「あんたらは……どこまであたしを道化にすれば気が済むのよ……。あたしがバカみたいじゃん……。こっそりガレージで寝泊りしようと思ってたら見つかるし、工房に泊まったらあっさり見抜かれるし、必死に嘘ついて気を使わせないようにしようって思ったのにそれもとっくにお見通しでさ……。それを笑うならまだしも、みんなしてあたしの部屋まで探してるなんて……。
あたし、どんな顔すればいいのか、わかんないじゃん……」
「迷惑だと思うなら怒ればいい。そうでないなら笑えばいい。簡単なことだろう」
とクローディア。めったに表情を出さない彼女に感情表現云々を説かれるのは非常に理不尽だったが、今のアレッサにそれを怒る気は微塵も無かった。
「ありがとう……みんな」
心の底から言って、アレッサは笑った。
四人のメイドたちは、それを優しく見守った。
アレッサの引越しも済み、みなともの刑期もなんとか終わったある日。全員がダイニングで昼食をとっていると、アレッサが思い出したように言った。
「そうそう、あたしが前に住んでたアパートのオーナーなんだけどさ」
「……ああ、管理人のばーちゃんの息子だっけ。アパートを取り壊して自宅にするとか言ってた」
記憶を掘り起こしてみなともが呟くと、アレッサは大きくうなずいた。
「そう、そいつ。自宅を建てるの止めたらしいんだよ」
「へぇ。どうして?」
「そいつ自身は別に悪くないんだけど、ご近所であまり評判が良くないんだと」
「……?」
言葉の意味がわからないのか、みなともとメイリンが首を傾げる。
「あたしらが住んでたときは、ばーちゃんに恩返しするつもりでアパート住人で近所のゴミ拾いとか掃除とか、そういうのをマメにやってたんだよ。それが近所では結構喜ばれてたみたいで、それをやってたあたしらを無理矢理追い出したもんだから息子の評判が悪いんだと。不法滞在してたヤツがいたんだって言っても、他のみんなを追い出すことはないだろうって責められたとか。で、結局アパートの取り壊しをやめてリフォームして、住人を戻したんだとさ。
あたしはそれを聞いたとき、指さしながら腹抱えて大笑いしに行ってやろうかと思ったよ」
「それは亡くなられたお婆の人徳に拠るところが大きいのだろう。人を動かすのは物でも金でもなく心だという良い見本だ」
クローディアが言うと、一同がうなずいた。
「ディアの言う通りだよ。正直、住人は真っ当な手続きで滞在している連中だけど、中身が真っ当じゃないヤツも結構いるんだ。でもそいつらもばーちゃんの前では子供みたいにおとなしいんだよ。怒られたらしょぼんとしてるし誉められたら無邪気に笑うし。
それだけばーちゃんが慕われてたってことなんだろうけど、どうやったらあそこまで慕ってもらえる人間になれるのかと思うよ。あたしなんかとは次元が違うのかな」
苦笑しつつため息をついて、アレッサはやれやれと肩をすくめた。
それを聞いていたみなともはきょとんとした。
「……何言ってんの? アレッサ」
「え?」
「アレッサが慕われてなかったら、ここにいるみんなはアレッサのために部屋を探したりしないよ。ただの同僚だったら、気遣いくらいはするだろうけどあんな積極的に行動を起こしたりはしない。
どうしてそんなこともわからないかな」
いつだったか、同じようなことでアレッサにやり込められた仕返しとばかりにみなともは言った。アレッサはぽかんとしてみんなの顔を見ていたが、全員が笑っていたので少し恥ずかしくなった。
「……うるせー。みなとものくせに偉そうなこと言うな」
ぱんっ!
「をぶっ!」
照れ隠しにアレッサが放ったベレッタの弾は、的確にみなともの眉間をぶっ飛ばした。
「でも……ありがと」
そう呟いた言葉は誰の耳にも届かなかったが、嬉しそうな表情だけでその気持ちは全員に間違いなく伝わっていた。
今日も工房は約一名を除いて平和そのものである。
完
【あとがき】
どう見ても工房メイドは怖いです。本当にありがとうございました。
…おかしいなぁ…もうちょっと円満に終わるはずだったんだけど…。
by minatomo-koubou
(2009/01/29 14:03)
・創作小説
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