末々草(すえ思う故にすえあり)

【久しぶりの】医学教育の実習・研修モデルと,臨床心理士養成のそれとを比較して考える【大型エントリ?】
※注 医学モデルがすばらしいというエントリではありません.ですが,参考にするべき所はいっぱいあると思うわけです.
皆さん,実習と研修の違いについて説明できますか?
(2月22日 more・・・で表示するようにしました)
辞書を参照してみましょう.
【実習】 実地または実物について学習すること.
【研修】1.学問や技芸などをみがきおさめること.2.現場教育.
(いずれも 広辞苑 第五版 岩波書店 1998より)
となっております.
医学教育において,実習と研修との間には明確な線が引かれています.その理由は簡単で,「医師は国家資格である.よって,医師を養成するためとはいえ国家資格を持たない者に医行為を行わせるわけにはいかない.」からであります.
そこで・・・医学教育モデルで考えると,
【実習】実際の医療場面において医療行為がどのように行われるかを学ぶ.
【研修】上級医の指導を受けながら患者に対して医行為を行いつつ研鑽する.
というふうになると思います,
実習においては,医学生は患者から(もちろん患者の同意の下)様々な情報を得ます.ですが,それら知り得た情報から自分の見立てや診断を患者に伝えることは許されません.もちろん,処方などの介入も許されません.それに対して,研修は診察・診断・治療介入,すべてが許されています.もちろん上級医の指導を必要としますし,専門医でないと許されない(あるいは推奨されない)治療法もありますが,基本的に研修を受ける者も「医師」であるためにすべての医行為を許されています.
さて,我々臨床心理学の世界(認定大学院のカリキュラムを前提にして)ではどうでしょうか?
あくまで私見でありますが,私は臨床心理教育モデルが,この「実習」と「研修」を明確に区別していないのではないかと思います,そして,それはそのまま弊害となってはいまいか?と思います.
大学院修士課程は2年間です.この2年間で実習と研修の両方を行うことになる(はずな)のです,指定校の実習プログラムでは,だいたい1年次の前期から後期の半ばにかけて試行カウンセリングやロールプレイを行う事が多いように思います.そして,1年次後期開始ぐらいから,各種施設に実習に行ったり,先生のインテイク面接に陪席したり,あるいはケースを担当し出します(※注;このあたりは私の受けたカリキュラムや周囲の人から聞いたカリキュラムの内容をもとにしております).この中で,医学教育モデルでの「実習」に当てはまるのはインテイク面接への陪席くらいでしょう(試行カウンセリングやロールプレイは実習前の臨床教育にあてはまると思います).後はすべて,何らかの介入をすることになると思いますので,「研修」に区分されます.
さて,前述しましたが医師は医行為をするためには国家資格「医師」が必要なために,明確な線引きがされています.そのため,実習では介入についての教育はほとんど行われません.では,実習生は何を学んでいるかというと,徹底的に「臨床場面の実際」と「医師としての見立て方」を学んでいるわけです.医学部の学生は,臨床実習を1年かけて行います.実際にはすべての科を廻ることになるので,一つの科は2〜4週間で終わることになりますが,それでも1年間もかけて実習を行い,医師のものの考え方と実際の患者はどんな人たちなのかを学ぶわけです.
これと比較すると,我々心理の教育プログラムにおいて,実習が軽んじられていることがわかると思います,例えば我々はインテイク面接をどれくらい見ることが出来るでしょうか?かなり限られているのではないでしょうか?先輩心理士がクライエントを査定する場面を見ることが出来ましたか?僕は出来ませんでした.心理検査のツールはかなりの種類があります.それらのどれくらいを見たことがありますか?恥ずかしながら,僕は働くまで自分以外の人がクライエントに査定をするところを見たことがありませんでした.
医師の研修システムが昨年から大きく変わりました.卒後臨床研修が必修化し,スーパーローテート(内科・外科・小児科・精神科などの必修科と+αで希望科を廻って研修を行うシステム)になり,医師として必要な最低限の知識と技能を獲得できるような研修プログラムを受けることができるようになったのです(この方式の批判があるのは知っていますが,本題ではないのでとりあげません).国家試験に合格している「医師」の研修ですから,当然患者に対して治療介入を行います.上級医の指導のもと,その科に求められる知識・スキルを学ぶわけです.当然の事ながら,医師として,一人の専門家としての責任も負わされます.限られた期間の実習ということは,当然獲得できる知識・スキルも限られてしまいます.しかし,少なくともその科の特徴的な疾患についての知識,対処法についてはかなり勉強になりますし,「この症状,この訴えは○○科だな?」といったようなコンサルトのために必要な知識・スキルが身に付くことになると思います.
それと比較して臨床心理の養成における研修はどうでしょうか?臨床心理士は教育,医療・保健,福祉,司法・矯正,労働・産業,などの領域で働いています(下山,1999).では,我々はこれらすべての場所で研修を行ったでしょうか?これもNoではないでしょうか?少なくとも私にとってはNoです.私はかなり医療に特化した心理士だと思っています.というよりも,医療以外の領域で必要とされている心理士の役目をよく知りません.知識としてはある程度はあるかもしれません,しかし,それが実践に使えるほどのものとはとうてい思えませんし,明日からその職場で働けと言われたら途方に暮れてしまいます.現場を知らないと言うことが本当におそろしい事であることがわかります.
さて,以上のように比較して書き出してみると,臨床心理の教育モデルに欠けているものが見えてきたのではないかと思います,蛇足かもしれませんが,私は別に臨床心理の教育モデルがだめだと言ってるわけではありません.今よりももっと改善の余地があるだろうと言っているのです.
まず最初に,我々はもっと「見立て方」「ものの考え方」を知るための実習をもっとしっかりと受ける必要があると思います.自分たちが関わっている全ての分野を出来るだけカバーできるように,えり好みをしないように.
また,我々はもっと介入に慎重でなければならないと思います.“クライエントと面接をする”そのこと自体がすでに介入なのです.それをするためには(医師が国家資格を必要とするように)もっと厳格に基準を作ることが必要だと思います.もちろんクライエントと接して学ぶことが多いのはわかっています.ですが,クライエントは利益をえなければなりません.不利益を被らないではだめだと思います.そのことを考えると,もっと厳格にしても何ら問題はないのではと思います.
そして,我々は様々な職場を知る必要があると思います.様々な現場で臨床心理士が働いていること,またその職場で求められる心理士の役割が何であるかを知る必要があると思います.
書いていると,たった2年間でここまで出来るわけないよなぁ…って思います.そこで,“じゃあ2年間で出来る事を…”って考えるのではなく,“もっと長い時間をかけて学ばないといけない”と考えなければいけないとは思いませんか?僕の師匠が時々言いますが,やはりそろそろ「心理学部を作るべき」なんでしょう.医師が6年間かけて養成されていくように,臨床心理士ももっと期間をかけて実習・研修を行っていくべきです.学部の4年と院の2年が乖離してしまっている現行制度にはやはり問題があるのではないでしょうか?
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by psycho-bio-social
(2006/02/15 16:18)
臨床心理学関連
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