わが友ホロゴン・わが夢タンバール

48.03 ホロゴンドラマ2「2008年11月9日長崎二日目」3 若者には伝統芸能は無縁?
文楽公演が終わり、帰りにつく観客でロビーが溢れました。
壮観でした。
ほとんど8、9割、老人だったのです。
その場の平均年齢? 考えたくないですね。
歌舞伎、能、仕舞い、長唄、浪曲その他伝統芸能であれば、例外なく、これと似た状況なのでしょう。
老人でないと、惹きつけられないのでしょうか?
若者には伝統芸能は無縁なのでしょうか?
もしそうだとすれば、伝統芸能は死に瀕しています。
もっとも、ずっと前からそう言われていて、しかも、ちゃんと生きながらえている。
そんなに心配すべき状況ではないのか知れませんね。
なぜか、今の若者もそのうち年寄りになりますからね。
白状しますと、私が人形浄瑠璃に惚れ込んだのは、30歳すぎでした。
義太夫の自由自在の表現力とその力強い語り、
太棹三味線のベン、ベーンと魂をふるわせるようなバチの響き、
その繊細、豪放、多彩な表現の幅、
そして、なによりも、人形遣いの手に添えられて、
生命感溢れるドラマを演じる文楽人形の美しさ、
これらに心をすっかり奪われてしまったのです。
義太夫、三味線、人形それぞれの分野に、歴史に残る名人たちがそろい、
脇役たちも長年修行してきたベテラン揃いで、隅々まで見応えがある。
年4回の公演にかかさず通いました。
のめりこむあたりに、私の性格が出ていますね。
いつもなにかにのめり込んでいる、しかも、一旦のめりこむと永続する、
それが私なのです。
文楽では、その間終始、蓑助が私のヒーローでした。
蓑助の手の中で、人形は実に確信に満ちた動きをします。
そして、ある瞬間、突然、極めて突然、ぴたりと静止します。
その静止の瞬間の人形の姿、横顔の美しさはたとえようがない!
その瞬間の静寂そのものの美、
蓑助のすさまじいばかりの気迫、
これは人類の遺産なのです。
前にも書きましたが、バレエのニーナ・アナニアシヴィリの静止とそっくり。
ニーナも、激しい動きから突然完全静止に移行します。
そのときの姿の美しさもたとえようがありません。
こんなに見事に静止できるバレリーナを私は他に知りません。
動の流麗さでニーナに勝るバレリーナはいくらでもいます。
でも、静の美しさでニーナに勝るバレリーナはいない!
激しい動から一瞬にして完全静止に移行する、
これはどうも芸術全般における一つの典型的な基本動作のようです。
たとえば、ピアニストが低音部でフォルテッシモをバンと叩いて、
瞬時に高音部に飛んで、きらきらとピアニッシモでアルペジオする、
こんなときの急激な移動にかかるエネルギー、力を、
瞬時にエネルギーゼロに変化させ、ピアニッシモでポン。
そのとき、ちょっとでもためらい、遅れがあれば、
聴衆はたちどころに気づきます。
こんな風に類推していきますと、
蓑助が真の芸術家であること、
人形浄瑠璃から、真の芸術家が生まれるということは、
人形浄瑠璃もまた人類の遺産であることを教えてくれます。
もしあなたが人形浄瑠璃をご覧になったことがないのなら、
ぜひ文楽公演に足を運んでみてください。
テレビで観るなんて、駄目ですよ。
すべての芸術に言えるように、自分の眼で本物を観てくださいね。


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